新着論文紹介

Mogamulizumab (Anti-CCR4) in HTLV-1-Associated Myelopathy.
HTLV-1関連脊髄症におけるモガムリズマブ(抗CCR4抗体)

ジャーナル: The New England Journal of Medicine, 378(6):529-538, 2018.
著者: Tomoo Sato1, Ariella L. G. Coler-Reilly1, Naoko Yagishita1, Natsumi Araya1, Eisuke Inoue2, Rie Furuta3, Toshiki Watanabe4, Kaoru Uchimaru5, Masao Matsuoka3,6, Naoki Matsumoto7, Yasuhiro Hasegawa8, and Yoshihisa Yamano1,4
所属: 1. 聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター、2. 聖マリアンナ医科大学 医学情報学、3. 京都大学 ウイルス・再生医科学研究所、4. 聖マリアンナ医科大学大学院 先端医療開発学、5. 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻、6. 熊本大学医学部 血液・膠原病・感染症内科、7. 聖マリアンナ医科大学 薬理学、8. 聖マリアンナ医科大学 神経内科
URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29414279
http://www.nejm.jp/abstract/vol378.p529(日本語アブストラクト)

要約

 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は、その名の通り、白血病の原因として知られたウイルスですが、一部の感染者にHTLV-1関連脊髄症(HAM)という全く別の神経の病気を起こします。HAMは、歩行障害、排尿障害、足のしびれや痛みを生じる難病ですが、これらの症状は次第に進行し、最終的には車いすや寝たきりの生活を余儀なくされ、深刻な生活の質の低下を引き起こします。現時点では、HAMに対する有効な治療薬は存在しないため、新しい治療薬の開発が求められてきました。

 これまでに我々は、この病気が起きるメカニズムとして、HTLV-1が主にCCR4という分子を細胞表面にもつTリンパ球に感染しており、その細胞の機能を変化させ、脊髄に慢性炎症を引き起こす結果、脊髄が傷害されることを明らかにしました。そのため、CCR4を発現しているHTLV-1感染細胞を破壊できる抗CCR4抗体(薬剤名:モガムリズマブ)は、HAMに有効な治療薬になると考えました。そこで、既存治療で効果不十分なHAM患者を対象に、この抗体療法の安全性と有効性を評価する早期の臨床試験を実施しました。その結果、モガムリズマブはHAM患者に対して安全に繰り返し投与可能であることが示されました。また、この薬剤は投与濃度に応じて、感染細胞を減少させただけでなく、脊髄の炎症レベルまで低下させました。それに伴い、下肢のつっぱり具合が改善した例が被験者全体の8割で認められ、大きな症状の改善を示す運動障害重症度の改善まで認めた例が全体の3割ありました。

インパクト

 本研究は、抗CCR4抗体モガムリズマブが、HTLV-1感染細胞を破壊することで、HAM患者に認められる脊髄の慢性炎症を改善させ、その結果、症状の改善をもたらす、という全く新しい作用メカニズムを持つHAM治療薬となる可能性を示しました。また、慢性疾患のHAMに対して安全に長期の使用を可能とする用法用量を開発できました。さらに、HAM患者もHTLV-1感染による白血病を起こすリスクがありますが、この薬剤は、白血病発症に関わる特定の感染細胞集団を減少させ、繰り返し投与により、その細胞集団が減少した状態を維持できたことから、白血病への進展予防効果も示唆されました。従って、本薬剤はHAM患者のみならず、多くのHTLV-1感染者に福音をもたらすことが期待されます。

新着論文紹介一覧に戻る

ページの先頭へ