HTLV-1研究会設立趣意書

HTLV-1は、我が国に約120万人の感染者が存在し、その中から毎年1,000人以上の方が成人T細胞性白血病(ATL)を発症して亡くなられております。また、このウイルスはATL以外にも慢性の神経疾患であるHTLV-1関連脊髄症(HAM)や急性の目の炎症であるHTLV-1ぶどう膜炎(HU)の原因となる事が知られています。我が国はこれらの疾患および原因となるウイルスが発見された国であり、HTLV-1の基礎および臨床研究では世界でも中心的役割を果たして参りました。しかしながら、ATLは未だに有効な治療法が無く最も予後の悪い白血病として知られており、新たな治療法や発症予防法の開発が切望されております。

一方、近年この領域の公的な研究費の支援は低下傾向を示し、臨床および基礎研究は一時その活動の低迷が懸念される時期もありました。これに対して、臨床・疫学・基礎研究のそれぞれの再活性化を目的としてさまざまな取り組みが行われて参りました。2002度年以降には、文部科省科学研究費補助金「がん研究に関わる特定領域研究」の総括班と疫学調査班などが後援する形で、年1回の「HTLV-1/ATL研究発表会」が2005年まで4回にわたって開催されました。また、2006年〜2007年には「連続公開講座:HTLV-1と疾患」を開催し、毎月1回の講演会が開催され、その成果を背景として、臨床から基礎の領域を網羅するこの領域では我が国初の包括的な教科書(「HTLV-1と疾患」2007年、文光堂)を発行する事が出来ました。2007年には第13回「国際ひとレトロウイルス会議:HTLVと関連ウイルス」が開催され、国内外合わせて350名を超える参加者が最新の情報を発表して議論を行い、交流を深めました。これらの活動実績を基盤として、それを定着させ更に発展させるための安定した構造が求められております。

従って、「HTLV-1研究会」設立の趣旨は、この領域に関係する臨床家、疫学者、基礎研究者等が一堂に会して情報交換と共同研究計画の発案を可能にすること、および、若手研究者のモチベーションを高め、その教育と育成の機会を設けることにあります。このような場は種々の領域の研究者が「ATLをはじめとしたHTLV-1関連疾患の発症予防法と新たな治療法開発する」というコンセンサスのもとに、国際的に評価されるような研究成果を発信する新たな道を開くことになりその将来にとって極めて意義深いことと存じます。

以上、HTLV-1研究会設立の趣旨にご賛同いただき、各方面のご理解とご協力をお願い申し上げます。

 平成20年5月吉日

「HTLV-1研究会」設立発起人

間   陽 子 出 雲 周 二 岡 山 昭 彦 上 平   憲
神奈木 真 理 田 島 和 雄 徳 留 信 寛 藤 井 雅 寛
松 岡 雅 雄 望 月   學 山 口 一 成 渡 邉 俊 樹